医院には、病気について簡単にまとめてあるパンフレットが複数置いてあります。必要な方には持ち帰ってもらっています。
その中で持ち帰られることが多いパンフレットの一つに“耳あかについて”があります。
私たちの耳は、外側から順番に外耳、中耳、内耳があります。外耳炎、中耳炎、内耳性のめまいや難聴などが主な病気になります。多くはありませんが帯状疱疹が耳にできて強い痛みや、難聴、めまい、顔面神経麻痺をきたすこともあります。外耳道(耳の穴)には、外側の軟骨部と内側の骨部にわかれています。軟骨部に耳毛、皮脂腺、そして耳垢腺があります。外耳道は外から入ってきた音を奥の鼓膜に伝える役割があります。
耳あかは、耳垢腺や皮脂腺からでる分泌物やはがれ落ちた皮膚などからできています。耳あかは、取らなければいけないというイメージがありますが、外耳道を保護する、細菌の増殖を抑える、昆虫などの侵入を防ぐなど様々な働きがあります。耳垢腺からの分泌物によりpH5前後の酸性環境が保たれることで菌の増殖を抑制しています。外耳道は、耳あかを外側に移動する自浄作用があります。
耳あかがたまって外耳道が塞がれた状態を耳垢栓塞(じこうせんそく)と言います。耳垢腺栓塞をきたしやすいのは、小児と高齢者です。小児では、外耳道が狭いため耳あかがたまりやすくなります。不適切な耳そうじで耳あかを奥に押し込んでいることもあります。耳そうじが耳垢栓塞の原因になることもあり注意が必要です。高齢者は耳あかを外側に移動させる自浄作用が低下して耳あかがたまりやすくなります。高齢者は、耳あかを取ることでよく聞こえるようになることをしばしば経験します。(加齢性の難聴は変化しません)高齢者の難聴と認知症との関連性はWHOでも指摘されており、耳垢栓塞による難聴の増悪には注意が必要です。難聴以外の症状としては耳がこもった感じ、頭を動かすとカサカサ音がするなどの症状があります。
耳鼻咽喉科では攝子(ピンセット)や耳用の小さな鉗子、吸引菅などを用いて耳あかを除去します。耳の穴の直径は6mm~1cmと小さいため顕微鏡を用いて除去することもあります。耳垢栓塞や硬くこびりついた耳あかなどで、除去が難しい場合は、耳垢水を用いて柔らかくしてから除去する場合もあります。
赤ちゃんの場合は、風呂上がりに耳の入り口だけ、軽くタオルで拭いて、水分を取ってあげるだけでよいと思われます。耳あかが気になる場合は頑張って取ろうとせず、ご相談ください。小さなお子さんは、耳そうじ中の急な動きで耳の中を傷つけて受診されるケースもしばしばみられます。子供から大人まで年齢に関係なく、耳あかを奥まで押し込んで受診されるケースも珍しくありません。頻繁な耳そうじは、痛みなどを伴う急性外耳道炎や、痒みなどを伴う慢性外耳道炎の原因になります。
耳そうじは月に数回で十分です。耳そうじを、毎日や週に数回行う必要はありません。ほどほどがよいです。
耳あかを取ることは医療行為として認められています。ご自宅で頑張りすぎないようにしてください。